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2024.12.19 グラヴィール基礎科授業の様子

グラヴィール―具象的なガラス彫刻技法の授業を終えて…(学生作品紹介)

グラヴィールとは

グラヴィール(gravure)とは、回転する銅盤を用いてガラスに立体的な彫刻を施す技法。17世紀ボヘミアにおいて水晶彫刻の技術をガラスに応用することから始まったといわれる、伝統的な技法です。動物や植物などを立体的に彫刻することに適しています。英語では「wheel engraving(円盤彫刻)」とも呼ばれます。

▲グラヴィールの授業を担当していただいている非常勤講師の後閑 博明先生の作品です。

グラヴィールの製作手順

グラヴィール作品ができるまでの流れをご紹介します。

1.生地の用意

彫刻する前のプレーンなガラスの器を、「ガラス生地」と呼んだりします。この「生地」を用意するところから作品制作は始まります。

自分でガラス生地を吹いてもいいですし、既製品の生地を使ってもいいです。選ぶ上ではガラスの硬さを気にする必要があります。

一般的に、ガラスは硬いというイメージがあると思いますが、硬い中にもレベルがあります。窓に使われるような板状のガラスはかなり硬く、普通のコップや瓶に使われる「ソーダガラス」はそれよりは少し柔らかく、高価な食器に使われる「クリスタルガラス」はさらに柔らかい、といった具合です。グラヴィール作品の生地にはクリスタルガラスを使うのがベストです。彫るときの抵抗が少ないので繊細に彫れますし、仕上がりの輝き感・透明感も高く図柄がよく映えます。

2.下絵を描く

どんなモチーフをどこに配置するか考えてデザインし、油性ペンなどを用いて生地に描きます。

グラヴィールでは動物や植物などの具象的な絵柄を彫ることが多いですが、それ以外のものでももちろんOKです。

3.彫る

回転する銅盤に研磨剤を塗り、ガラスを当てます。ガラスを滑らかに動かして彫刻します。彫る形に合わせて、直径の小さい銅盤や、厚さが薄い銅盤など色々なタイプを使い分けます。

▲インスタでは動画を載せています。

彫ったところは、白く曇ります。単純に銅盤を滑らせて白くなっただけだと立体感はありません。描く対象をリアルに浮き上がらせるには、どこを深くしどこを浅くするか、彫ったところと彫っていないところの段差をどれくらい急にするか、といったことを考えないといけないのです。

▲学生作品のナメクジ。背中に向かって深く彫ることで丸みを見せています

4.磨く

白く曇った部分を磨くことで質感や印影を表現できます。磨いた部分は白っぽさが減り、影のように見えるので、うまく使うと陰影のある絵に見せることができます。一点だけ集中的に磨くとそこだけキラキラ輝いて見えるので、瞳の輝きなどにも利用できます。

▲学生作品のヒイラギ。実の黒っぽいところが、磨いたところです

東京ガラス工芸研究所で習うグラヴィール

東京ガラス工芸研究所の基礎科では3週間ほど集中してグラヴィールの授業を行います。講師は後閑 博明先生。長年グラヴィールの職人として勤められた先生です。(▶先生の作品及びプロフィールはこちら

授業初日は真っ直ぐなタンブラーに小さな丸をたくさん彫る練習から始めます。慣れてきたらより応用的な形(葉っぱなど)の練習をしたり、磨きをかけて立体感を出したりと、個々の進度に合わせて授業は進みます。ある程度基礎が身に付いたら、好きなガラス生地に好きなデザインを施す自由制作に入ります。

難しい技法ではありますが、同級生も皆初めてですし、自分のペースで進められるので安心です。

他の技法との違い

東京ガラスの基礎科では10種類の技法を習います。グラヴィールに性質が似た技法としては他にカット(切子)やサンドブラストなどの技法があります。

 

このようにガラスを彫ったり削ったりすることで作品化する技法の総称を「コールドワーク」といいます。吹きガラスなどと違ってガラスに熱を加えずに(冷たい=coldな状態で)制作をするためです。(逆に、吹きガラスやバーナーワークなど熱でガラスを溶かす類の技法はホットワークと呼ばれます。)

カットやサンドブラストと比べたグラヴィールの特色は、手先を細かく柔らかく使って直接絵を描くようにガラスを研削していくところでしょう。また、彫ること自体の難しさにも定評があり、実際に習った学生からは最も難しかったという声も聞きます。初めてグラヴィールをやってみると、銅盤がいったいガラスのどこに当たっているのか、ちゃんと削れているのか、なかなかわからないのです。逆に言えば、やり続けて慣れていく達成感のある、奥深い技法です!削って、失敗して、体で覚えましょう!

 

学生が仕上げた作品をご紹介

授業最終日は、今まで作ってきた作品を発表し、先生の講評を受けました。講評会に出された作品(令和6年度総合基礎科、夜間基礎科1、2年生)を一部お見せします!

▲ユリ

▲キジ

▲入道雲

上からのぞくと地球を上から見ているようになるそうです。

面白いアイディアです!

 

 

▲ねこじゃらし

フサフサした感じを出すのに苦戦しました。細い銅盤で細かい線を彫って、かなり雰囲気が出ました。

▲ボタン

「平坦な花弁は簡単だと思ったら、かえって粗が目立ちやすく難しかった」とのこと。上手くなると広い面は見せ場になりますよ!と、先生。

▲ボタンを彫ったのと同じ学生による作品。自分の頭の雲から雨が降っています。自分の悲しみを自分が作っているということを表しているそうです。

 

ナメクジ。生き物が好きな学生による作品。自分で吹いたコップに、在来種と外来種のナメクジを表裏に彫りました。

▲外来種
▼在来種

▲題「お財布のパートナー」
お財布にあるとうれしい500円玉を描きました。サンドブラスト(縄の部分)やカット(底のギザギザ)を併用した作品。

▼表には魚の形、裏にはその骨を彫った作品。表から見ると、魚の中の骨が透けて見えます。

▼裏返すと骨がはっきり見えます。
ガラスの性質をうまく使った、遊び心がある作品!しかし本人によると、「透け具合をまだわかっていなかった」そうで、思い通りの仕上がりではなかった模様。ぜひ第二弾を作ってほしいです。

▼こちらもかなり変わり種!夜間基礎科2年生による作品。板ガラスに彫った線や丸の微妙な隙間にラメを載せ、接着して閉じ込めています。

▼百人一首、三連。

グラヴィールの美しさと、日本の美しさを融合する試み。

自分で吹いたお皿に彫っています。お皿にできた凹凸が銅盤と干渉して彫りにくかったそうですが、きれいに彫れているのではないでしょうか。
これを100首分作って並べて、風が吹いて音が鳴ったらすごいだろうねと話していました。あと97個、頑張りましょう!

以上、一部ではありますが学生の作品でした。

グラヴィールが初めてだった皆さんが、それぞれの良さの出た作品を完成させることができたのは素晴らしいことです。学生の皆さん、ぜひこれからもグラヴィールという技法に触れ続けてください。

ガラス工芸の技法をもっと知りたい方へ

東京ガラスでは多岐にわたるガラス技法を教えています。

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